南アルプス南部に氷河地形があることは昭和33年から研究者によって発表されてきましたが、近年では日本における「氷河地形の南限」となる2つのカール(圏谷)が赤石岳の東面にあることが明らかになっています。その規模は北アルプスや北海道・日高山脈には及ばないものの、カール地形をしっかりと確認できます。
赤石岳と小赤石岳の東面に2つのカールが発達

3000m級の高峰が連なる、台湾山脈(チョンヤン山脈)にも氷河地形群がありますが、日本国内ではこの南アルプス南部の高峰、赤石岳(3120.5m/静岡県静岡市葵区)の氷河地形が南限。
赤石岳とその北の小赤石岳(3081m)も南東へと流れる北沢の源頭部、標高2900m以上の場所に、国土地理院の2万5000分の1地形図からも、はっきりと2つのスプーンカットされたカール(圏谷)地形を確認することができます。
これが赤石岳東カールと、小赤石カールと通称されるカールで、カール底の標高2900mから標高2300mにかけての北谷はU字谷となっています。
標高3000mあたりがカール壁の上部で、赤石岳東カールのほうがしっかりとしたカール底が確認できます。
赤石小屋、富士見平からの登山道は、小赤石カールのカール底から小赤石カールと赤石岳東カールとの間の尾根に登り、稜線に到達しているので、「日本最南のカールを探勝する歩道」ということもできます。
氷河時代(7万年前〜1万年前の最終氷期)には海面が100m低下し陸地が拡大(本州は瀬戸内海の陸化により四国、九州と接続)、南アルプスなどでは森林限界が現在よりも1500mも低くなったことがわかっています。
赤石岳では現在の森林限界は標高2600m付近なので、氷河時代には1100m付近で、それより上部は、周氷河地域となっていたと推測できます。
赤石岳でも南西面などに周氷河地形(地中の水分の凍結融解作用によって形成される地形)を確認できます。
ライチョウは寒冷な氷河期に分布が広がり、氷河期が終わると日本アルプスの高山帯に残った「氷河期の遺存動物」ですが、赤石岳にも生息するほか、さらに南部の光岳(てかりだけ)近く、イザルガ岳(静岡市)はライチョウの生息場所としては世界の南限となっています。
とくに赤石岳~聖岳の稜線部のハイマツ帯は、訪れる人も少ない南アルプスの最深部に位置するため、雷鳥の聖域的な存在にもなっています(赤石岳〜百間平は生息数が多いエリア)。


「氷河地形の南限」が南アルプス・赤石岳に! | |
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