富士山麓随一のミステリースポット、人穴

中世の富士山信仰の霊地のなかで、もっともミステリアスなスポットが、富士宮市にある人穴(ひとあな)。富士山麓の高原地帯にある溶岩洞穴ですが、江ノ島に通じるとの伝説もある不思議な洞穴です。人穴富士講遺跡として世界文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成要素の一つにもなっています。

鎌倉時代に仁田忠常が人穴探検

この人穴が歴史に登場するのは鎌倉時代。
源頼家は建仁3年(1203年)6月に富士の狩倉(狩り場)に出かけ、人穴の調査を仁田忠常(にったただつね=新田忠常)に命じています。
仁田忠常は、伊豆国仁田郷(現・静岡県田方郡函南町)の出身。源頼朝の忠臣で、平氏追討でも大活躍。奥州合戦においても戦功を挙げ、建久4年(1193年)の曾我兄弟の仇討ちの際に、兄の曾我祐成を討ち取ってもいるのです。
まさに猛者(もさ)!
鎌倉時代に成立した歴史書『吾妻鏡』には、「将軍家渡御于駿河国富士狩倉。彼山麓又有大谷(号之人穴)為令究見其所。被入新田四郎忠常主従六人」と記されています。
つまり、仁田忠常をリーダーに6人が人探検に向かったのです。
ところが、「往還一日一夜」という困難な場所で、なかには大河が流れており、大河の対岸の光を眺めたところ4人が「たちまちのうちに死亡」という惨事が勃発します。
吾妻鏡には、「是浅間大菩薩御在所」(ここが浅間台菩薩=浅間大神のいらっしゃる場所)と記しています。
屈強な仁田忠常ら6人の武将が入り、4人死亡。仁田忠常ともうひとりが命からがら脱出という事態となったのです。

仁田忠常洞中に奇異を見る図
浮世絵師・月岡芳年による妖怪画の連作『新形三十六怪撰』から「仁田忠常洞中に奇異を見る図」

『吾妻鏡』が原因で富士山信仰の聖地に

『吾妻鏡』に影響を受けた御伽草子の武家物『富士人穴草子』(室町時代)は、『吾妻鏡』に記された史実を利用して、仁田四郎忠綱の異郷訪問、地獄巡歴の物語に仕立てあげた作品です。
そのなかで、人穴で出会った浅間大菩薩が「富士のせんげんとはわが事なり」ということから、富士山の神仏はこの洞穴に宿ると認識されるようになります。

富士講の資料によれば、富士講の開祖である長谷川角行は、永禄元年(1558年)に人穴内部で修行をし、仙元大日神の啓示を得ています。
江戸時代、富士講が隆盛すると、人穴は富士山信仰の聖地を仰がれます。
角行は人穴で亡くなったとされ、人穴は富士講の浄土(浄土門)として、周囲には富士講の講者が建立した200基を超える碑塔が林立しています。
碑は、講祖や先達等の遺徳を称えるものであったり、富士山登拝の大願成就を記念したもので、
目の前の県道は、駿河国(静岡県)と甲斐国(山梨県)の甲府・郡内地方(都留郡)を結ぶ郡内道(人穴道)です。
富士講信者は、富士山本宮浅間大社(富士宮)に参拝し、吉田口(富士吉田)から富士登拝を済ませるとと聖地人穴に参詣にやって来たのです。

人穴
今も聖地の雰囲気が残されています
 

現在の人穴はどうなっているの!?

神仏混合時代には、洞穴の横に大日堂が建ち、札・御朱印の授与などを行なっていました。
明治の神仏分離、廃仏毀釈で寺は廃され、現在は人穴浅間神社の境内になっています。
昭和17年、少年戦車兵学校の開校に伴い人穴地区の山野が演習地に指定され、人穴浅間神社も移転を余儀なくされました。
終戦後の昭和29年に復興し、現在の社殿は平成13年に建立されたもの。

さてさて、ミステリアスな人穴富士講遺跡ですが、その正体は7000年ほど前の富士側火山の噴火、犬涼み山溶岩流で誕生した全長83mの溶岩洞穴。
洞穴は、南西の端が進入で、洞穴中央部でくの字型に曲がっています。
入口から20mの位置に祠が、30mの屈曲部手前中央には直径約5mの溶岩柱があります。
最奥部が83mで、現在は閉塞しており、江ノ島の岩屋(洞窟)に通じているという話は、伝説の域を出ません。

人穴浅間神社
現在の社殿は平成13年の再建

なぜ洞穴内で4人が死亡した!?

では、なぜ『吾妻鏡』には6人の探検武将のうち、4人が死亡したと記されていたのでしょうか?
一つの可能性として有毒なガスが充満していた、あるいは松明(たいまつ)の火などで酸欠となったと推測されています。

不思議な偶然といえば、人穴(北緯35°21′42.0″)から真東に大沢崩れ、富士山頂(火口)、さらには東口本宮冨士浅間神社(須走浅間神社=北緯35°21′45.4″)が位置しているのです。
とくに山頂を中心にほぼ東西12kmの地点に人穴と東口本宮冨士浅間神社が位置するのは偶然とはいえ、ちょっぴりミステリアスな気がします。
そんな人穴ですが、平成15年から文化財保護と崩落の危険から入洞が禁止となっています。
下の写真は、それ以前の取材で撮影された人穴洞内の画像です。

人穴の内部の様子
入洞できた頃の探検の様子


 

人穴(人穴富士講遺跡)
施設名 人穴(人穴富士講遺跡)/ひとあな(ひとあなふじこういせき)
住所 静岡県富士宮市人穴206-1
関連HP 富士宮市公式ホームページ
電車・バスで JR富士宮駅からタクシーで30分。またはJR富士宮駅から富士急静岡バス白糸の滝行きで30分、終点下車、さらにタクシーで15分
ドライブで 新東名高速道路新富士ICから約22km
駐車場 40台/無料
問い合わせ 人穴富士講遺跡案内所 TEL:0544-52-1620
掲載の内容は取材時のものです、最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。

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