毎年10月の最終日曜日の前夜、静岡県御殿場市の子之神社(ねのじんじゃ)で『沼田の湯立神楽』が行なわれます。子之神社に奉納されるもので、炎に浮かび上がる獅子が釜の周りを舞う様子は、迫力があり必見。大坂の湯立神楽とともに国の重要無形民俗文化財に指定されています。
獅子頭をかぶった舞手が湯立を行なう
獅子舞を伊豆・富士山麓では神楽と呼んでいますが、沼田の湯立神楽は、神楽とはいうものの、獅子舞で、獅子が湯立神事を行なう点が最大の特徴。
安永2年(1773年)、甲州・下吉田(現・山梨県富士吉田市下吉田)の行者・萱沼義兵衛(かやぬまぎへえ)が伝えたという歴史ある神楽で(萱沼義兵衛の名が記された辻引本が現存)、大釜で沸かした湯を用いる湯立神事ですが、各地で行なわれる神職が疫病を払うものではなく、獅子が行なうという珍しいもの。
当時、沼田に悪病が流行し、その厄払いのため萱沼義兵衛から伝授を受け、氏神に奉納したのが始まり。
御殿場市内の大坂、神奈川県箱根町の仙石原・宮城野などにも伝わるのが獅子の湯立神楽で、一帯に伝承される独特の形式です。
神社境内に湯釜を設置し、その四方に忌竹(いみだけ)を立て注連縄(しめなわ)を張りめぐらし、獅子は剣や鈴などを手に持ち、釜場やその近くなどで、笛や太鼓の囃子や神楽歌に合わせて舞い、2本の笹束(「湯たぶさ」)で湯釜の湯を3回大きくかきまぜて、四方に湯花を散らせ人々を清めます。
湯立を行った翌日の日曜には、直会の神楽として区長宅の庭で獅子が舞い(八本剣の舞など)、宵祭から本祭の一連を湯立神楽と称しています。
現在の富士吉田市など富士山の北麓では16世紀末から富士山の神仏に奉納するというかたちで湯立神楽が行なわれていました。
北口本宮冨士浅間神社では富士山登拝の際に、湯立神楽が奉納されたと推測され、湯釜も残されていますが、現在では湯立神楽は伝承されていません。
下吉田では萱沼氏の氏神でもある菅沼天神に、現在は獅子神楽が奉納されていますが、江戸時代には湯立神楽だったと推測できます。
萱沼氏は堂宮大工(寺社の建築、改築に携わる大工)だったため、駿河の神社にも関わりがあり、寺社の普請(ふぜい)の際に奉納される湯立神楽を見て、里人が教えを請い、そうして創始されたと考えられています。
画像協力/御殿場市
沼田の湯立神楽|御殿場市 | |
開催日時 | 毎年10月最終日曜日の前夜 |
所在地 | 静岡県御殿場市沼田238 |
場所 | 子之神社 |
関連HP | 御殿場市公式ホームページ |
電車・バスで | JR南御殿場駅から徒歩20分 |
ドライブで | 東名高速道路御殿場ICから約4km |
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